松風

来年2020年2月に、細川俊夫作曲『松風』を演奏させていただきます。
出演に際して、寄稿、インタビュー依頼を受けましたので、Blogの方にも掲載させていただきます。

最も大切に思う作品「松風」を、再び歌う機会に恵まれましたことに深く感謝しております。ベルリンにて初演を拝見した時の畏怖の念は、今も変わることがありません。オペラが生き続ける先の姿を見た気がしました。
これを超す作品は無い、そう感じた舞台に挑戦出来ることは演者として最高の幸福です。2016年、サッシャ・ヴァルツの舞踊団と共に香港にてアジア初演させて頂き、得難い体験と達成感を味わいました。その「松風」を、今度は能舞台にて日本人による演出で上演させて頂けることは大変感慨深く、襟元を正す思いです。
カリグラフィーが立体的な色彩の空間を含み、美しい息の営みと音の営みとが重なりあう「松風」の音楽は、無、間といった日本の無形文化、精神性を具現化し、普遍性を伴って国際的に広く日本の真髄を伝える機会を生んでいます。諸国にて既に高く評価を得た本作品に触れて頂き、時代の先をゆくオペラをシェア出来ましたら幸いです。
…………『松風』ひろしまオペラ・音楽推進委員会広報紙「オペラ通信」寄稿

●今までも細川俊夫作品に出演されてきましたが、細川作品の魅力はどんなところにあると思われますか?

繊細な音の色彩から創造される時空間の可能性。「間」の扱い。削ぎ落とされた先に生まれる何か。和楽器を使わずして現すこれらの音と静寂、呼吸の営みは、普遍性をもって日本の無形文化の真髄に触れる機会を生み、且つ時代の先をゆく音楽作品として国際的な評価に繋がっている点。

●今回の作品の役作りで、どんなことに取り組まれていますか?

オーケストラスコアから音の役割を知り、感じ、求められる色彩を具現化できるよう練習を重ねています。原作や能に関する書物を読み深め、能を観に行ったり、謡いの方のお話しを伺うことも貴重な体験です。また、平生から着物を着るなど和物に親しむよう過ごしています。これまで国内外にて細川作品を聴く機会を多くもってきたこと、細川先生に接する時間を頂いてきたことも、全て音楽で表現する役作りに影響することと思っています。

●身体のメンテナンスや喉ケアなど、いつもいいコンディションで舞台に臨むために心掛けていることはありますか?

自分の身体の事情に合った健康維持方法でもって日々微調整、軌道修正を重ねることを優先事項に上げています。最新の情報にアンテナを張り、身体や声帯に関する疑問はその都度知識に変え、次の練習で実験、分析。それらの日々の積み重ねを生かせるよう、フィジカルトレーニングや自律神経調整に取り組む等、確率を1%でも上げられるよう工夫の継続に取り組んでいます。

●能が原作のオペラを初めて観る人に、メッセージをお願いします。

「折あるごとに古い自己を裁ち切り、新たな自己として生まれ変わらなければならない、そのことを忘れるな 」観阿弥、世阿弥が残した有名な言葉「初心忘るべからず」の意味と仕掛けの一端を知り、時にオペラという別媒体で現れることまでも仕組まれていたのでは、と一寸思い馳せたりします。古の日本に住う人の魂と、現代の日本に生を受けている私達の交信の場が、今回の舞台には浮かび上がってくることと思います。初のオール日本人スタッフ・キャストによって創り出される広島公演、立ち合い人のおひとりになって頂けましたら幸いです。
………… 『松風』広島情報誌 TO YOU インタビュー

2019.12.11 information, work