ベルク:『ルル』組曲

東京シティフィル・ハーモニック管弦楽団 第264定期演奏会
12月14日 東京オペラシティ 指揮:下野竜也/東京シティフィル管弦楽団

<ルルの歌>で艶ゆたかな美声に鋭利な煌めきを魅せた半田美和子が<アダージョ>ではオペラ全曲版に従ってルルの絶叫を舞台裏から効果絶大に響かせ、終結部もオペラ幕切れ通りに加えられた恍惚たる歌唱が響きの濃淡にぴたりと焦点を定めて見事。企画の妙と演奏内容の誠実とが熱く昇華された一夜となった。再共演も期待。

 山野雄大 音楽の友 February 2013



・・・ベルクの『ルル組曲』では濃密かつ劇的な表現で、官能生、情念、緊張感など、錯綜する状況を存分に感じさせた。独唱の半田美和子(S)は技巧も見事、とりわけ「ルルの歌」ではルルの心情を濃厚で起伏のある表現で聞かせた。

 菅野泰彦 音楽現代 Vol.43 April 2013



[CD] Khôra-Niemandslied

曲目はヘンデルからバッハ、グリーグ、マーラーを経てウェーベルンやベルク、ラヴェルやストラヴィンスキー、それにリゲティや細川俊夫にいたる。CDの表題の『コーラ』は、ギリシャ語で「無」のなかから何かが生ずる母胎のようなものを指す。その意味で「歌」はまさに「無」から生まれる。
ソプラノの声はピアノとともに蒸留水のように極度に純化され、人間的な情感を削ぎ、無限の宇宙空間をただよう寄る辺ない孤独を感じさせる。出だしのマーラーの<私はこの世に忘れられ>はぐっとテンポを落としてはじまり、まさに「無」の空間から「歌」が生まれでてくる趣。ピアノもそれに合わせて抽象的なソノリティをひびかせる。ウェーベルンやベルクではそうした「歌」の誕生の静謐な経過を閲し、<ルルの歌>やリゲティの<マカーブルの秘密>では「歌」の生み出す「生動」が象られ、「無」の空間のなかでエネルギーとしての「躍動」が眼に見える「形」となってとらえられている。「音楽」の原型まさにここにありと強烈な印象を与えずにはおかない。その上でグリーグの<ソルヴェイグ>では音の「形」が人間らしい初々しい情感をおびはじめ、「声」はラヴェルの《シェエラザード》では海の茫洋とした風景と波のリズムが結びついて「けだるさ」の「形」さえとるにいたる。「音」とはなにか、それが人間になにを感じさせ、人間とどう結びついているかを考えさせられる刺激的なアルバムだ。[新譜月評]

 喜多尾道冬 レコード芸術 February 2013 Vol.62



マーラーで始まる。とても自然な発声で、リュッケルトの詞が美しく聴こえる。そして同じマーラーでも交響曲第4番第4楽章の<天上の生活>へ。この2つのマーラーで、本気で耳を傾けるほかないのがわかる。・・・細川俊夫のオペラ《班女》で印象的な歌を聴かせたソプラノは、ベルクの<ルルの歌>やリゲティのアリアなどで、精緻であるだけでなく、実に生き生きとした歌を聴かせる。新時代の巧い歌手であることは確かで、その巧さはまさにこのプログラムによって浮かび上がってくる。そしてバッハとウェーベルン、ヘンデルとラヴェル、グリーグと細川俊夫が、ある一点において等質なのだという、不思議な証明が行なわれている。・・・[新譜月評]

 堀内修 レコード芸術 February 2013 Vol.62



半田美和子はなにものかつまびらかにしないが、ここでひびき出ている「声」あるいは「音楽」は、いわば「音」のIPS細胞ともいうべき原点に耳を誘う。音は「無」と一衣帯水、無限の沈黙の裏返しであると納得させる。[プライヴェート・ベスト5 2012]

 喜多尾道冬 レコード芸術 February 2013 Vol.62



・・・高い技術や幅広く深い表現力とともに、瑞々しく甲高くない声質を美点に挙げたい。このアルバムでは、マーラー、J.S.バッハ、ベルク、リゲティ、ヘンデル、グリーグ、ラヴェル、ストラヴィンスキー、細川俊夫という選曲が愉しい。録音はやや近目のマイクで、ホールトーンより実音の割合が多い。これが実の詰まった音で、ある時は語り部として、ある時はヒロインになりきるこの人の魅力をよく捉えている。[特選盤]

 鈴木裕 Stereo February 2013



KENSOの新作で歌ってもらう歌手を探していた時に友人から「凄いソプラノがいる」と紹介されたのがこの半田さんだ。リハーサル、レコーディングと進むに連れ、その鍛えられた声と歌に完全にKOされた。そして平成24年5月に東京オペラシティで演奏された細川俊夫作「星のない夜」で私は彼女の真価に触れることになった。あまりに凄すぎて終演後楽屋に寄るのも躊躇われた位の衝撃。初ソロである本作に、彼女が大好きな所謂現代曲も収録されているところに気概を感じる。きっと本誌の読者にとっても刺激的なはずだ。この存在をクラシック音楽ファンだけのものにしておくのは本当に勿体ない。[特選盤]

 清水義央 EURO-ROCK PRESS Vol.56 February 2013



・・・日本にも「マカーブルの秘密」を高度の技巧、集中力に富む表現で歌いこなすソプラノが現れた。東京二期会に所属、高音域の装飾音を自在に操る「コロラトゥーラ」の領域で活躍する半田美和子。コロラトゥーラとしては例外的に、中低音域に厚みのある声の持ち主だ。その特色から、広範な音域を求められがちな現代オペラの分野でも、頻繁に起用されている。
このほど「エクストン」レーベルから出した初のソロ・アルバム「コーラ」(オクタヴィア・レコード EXCL-00092)には18世紀のバッハ、ヘンデルから21世紀の細川俊夫まで4世紀にわたる歌の数々を山田武彦のピアノとともに収めた。「マカーブルの秘密」は全体のほぼ真ん中に位置し、ハンニガンとはまた異なる味わいで聴き手を魅了する。

 日本経済新聞 2013.02.16



半田美和子のデビュー盤は衝撃的!! 何から何まで美しい上に選曲も心憎い。まずマーラーの二曲が透明な声で清楚に歌われる。後者の緩急も素晴らしい。そしてバッハ「マタイ」第二部のシンメトリーの中心の「愛より」アリア。正確な音程とイントネーションなどといった分析をはるかに超えた美の極致だ。ヴェーベルンとベルクの豊かなイマジネーションを経て、リゲティの圧倒的な「ゲポポのアリア」。この怖しい緊張感からヘンデルの「私を泣かせて」の開放感はどうだろう。コロラチュラも品がある。ラヴェル「シェエラザード」の不思議な触感と気だるさ、細川俊夫の「花子のアリア」の不気味な色合い。実に味わい深い見事なアルバムだ。

 横原千史 音楽現代 Vol.43 April 2013